胎動


初めて胎動を感じたのは,17週の終わりだった。
寝る前にお腹に触れていると,中から柔らかく突き上げる感触があった。
お腹だけでは感じず,手を当てて微かに分かる,微妙な優しい感触。


全く自分の意志と関係なく動くそれは,明らかに自分とは違う何者かの存在を実感するに十分だった。


「ああ,本当にいるんだ」


そう実感できた時,例えようもない幸福感に包まれた。
嬉しくてお腹に手を当ててはにやにやしてしまう。
ふいに母性が沸き上がってきて,塩分やらカロリーやら気をつけなければならない面倒な食事も,きちんとバランス良く食べようという気持ちになった。
「かーちゃん頑張るでー!」と妙に張り切って呟いた覚えがある。


正直,胎動を感じるまでは不安だった。
自分はちゃんと母親になれるのだろうか。
母性なんて本当に芽生えてくるんだろうか。
「妊娠が判明すれば母親には自然と母性が芽生えてくるものです」なんて書いてある妊娠本を見て,溜め息をついていた。
ただでさえワーカホリックで仕事好きなので,余計にそう思えたのかもしれない。


胎動を感じるまでは,お腹にいることを頭で理解していても,実感できるのは病院でエコー画像を見られる時だけだった。
相方が「父親の実感が湧かない」と不安げにしていたが,私だって同じだった。
勝手に自分の身体が変わっていくだけで。
妊娠中にやってはいけないことは避け,安静にするようにしていたが,そうするように書いてあったからそうしたまでのことで...。
本当にいるんだろうか。妄想か何かじゃないのか?


こんな不安が,胎動一つで吹っ飛んだ。
最初は夜寝る前だけ動いていたのが,徐々に動きを増し,仕事中や運転中にも動くようになっていく。
点状の突き上げしかなかったのが,複雑な動きをするようになってきた。
膀胱も容赦なく蹴られるし,驚くほど強い時もある(27週現在)。
でも,全く苦痛じゃない。とても愛おしい。


きみはここにいるんだね。
私たち夫婦のところに来てくれて,ありがとう。
時が来るまでお腹でぬくぬく過ごしなさい。
そして生まれてきたら,一緒にこの美しい世界を楽しもう。